夜明け

毎日5:00か6:00ころに必ず赤ちゃんがメーと泣いて起きて、授乳する。すごいものだ。きっちり3時間おき。夜が明けて、新しい光を感じるこの時間が好きかもしれない。眠りにつく家族の寝息が波音のよう。人間の呼吸って海みたいだなあと昔からよく思う。人間みんな元を辿れば海から来たしねえ。はるかなる旅を経て、命がつながっている。そんなことを思いながら、一所懸命お乳を吸う小さな頭を撫でる。

三木成夫「胎児の世界」はとても面白い本で、妊娠中読み直した。人間の赤ちゃんは、受精してからトツキトオカ、おなかのなかで生物の歴史をなぞるというので、驚いた。なるほど、胎児の顔は、はじめは魚のように見える。本の中では、魚類から陸に上がる頃にツワリがくるという説も唱えていてそれは本当か??と少し首を捻りたくなるが、まあ、おなかのなかで、とんでもない進化が遂げられているのは間違いなく、それはツワリも起こるだろう。因みにわたしはひとりめの時はほぼツワリはなかったが、今回ふたりめの時は、結構きつく、一時期ご飯を食べることがあまりできなかった。女の子と男の子、ひとりめとふたりめという違いもあるのだろうか。ツワリがひどい人は、入院もしなければならないほどだというから、大変なことだ。兎にも角にも、おなかで、どんどん勝手に生命の歴史がなぞられている、確実に成長しているということに、日々感動していた。ただそれだけで、奇跡のような毎日だ。

予定日1ヶ月前くらいからの腰骨のあたりのミシミシ感も、忘れられない。日に日にゆるんでのびて開いていった。骨と骨の間隔が広がっていくのを実感した。女性の身体のすごさを感じると共に、抗えない見えない力が強烈に働いていることに感動すらした。妊娠、出産は自分の身体が見えない力と新たな命に乗っ取られてしまうことでもある。メタモルフォーゼ。それにすこし戸惑いも感じた。自分が自分でなくなっていくような感覚だ。実際に、お産というのは、身体が変わるということなのだろう。

三寒四温

少しずつ少しずつ春になってきている。ひとりめの子を産む前のことを思い出す。梅が咲いてきたよ。きれいだよ。この世界も悪くないよ。もういつでも出てきてよいよ。生まれたら一緒に見ようね。そうやってお腹をさすりながら、たくさんお散歩していたなぁ。一緒にお散歩するようになれて感激だ。にぎる手をギュっとする。生まれてきてくれてありがとう。

今日の音楽*

今日の言葉*

若かったころ、たのしく遊んでいながら、ふと空しさが風のように心をよぎっていくことがありました。親からちゃんと愛されているのに、親たちの小さな欠点が見えてゆるせなかったこともありました。

いま私はちょうど逆の立場になって、私の若いときによく似た欠点だらけの息子を愛し、めんどうな夫がたいせつで、半身不随の病気の母にできるだけのことをしたいのです。

これはきっと私が自分の力でこの世をわたっていく大人になったせいだと思うのです。大人というものはどんなに苦労が多くても、自分のほうから人を愛していける人間になることなんだと思います。

いわさきちひろ


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