祈るときも、お茶碗とお箸でご飯を食べる時も、人間は両手を使う。左右同圧はとても大切。そしてヴァイオリンの場合は、上下同圧も大切だと思う。いかに脱力するかだけに目がいきがちだけど、その重さを対等に支える下からの支え。要はバランスなのだが、上手くいっているときは、エネルギーがプラスマイナス0のような感覚になる。テニスでボールの真っ芯に当たったときというのは、まるで打ってなかったかのような感覚がある。向かってくるボールの力と、迎え打つ自分が渾然一体になってスコーンと飛んでいく感覚。あれがプラスマイナスゼロ感覚。自分の真っ芯を感じられている状態。ラケット持ちすぎると手打ちになる。
上下、左右もそうだが、それに加えて、というより全方位からのエネルギーが回り出すとさらに素晴らしい。弾いているのに弾いてないみたいな感覚だ。特に足裏(土踏まず)が地面すいつく感覚になって、天と地がつながる。
さらにいくと、地面からのエネルギーを吸いつつ、第3の目が開いて、頭がポカーンとして、エゴがなくなってくる状態になると、天からインスピレーションがおりてくる。筒になった感じ。エネルギーが対流する感じ。地球の磁場と共鳴する感じ。壮大だけれど、音楽って宇宙とつながることができるものだ。
あくまで個人的なものだが、弾いているときの感覚をことばにしてみた。いつか、ヴァイオリンの手ほどき絵本を描きたいなぁ。
今日の音楽*
エネルギーが見事に循環している村上さんの演奏。何度見ても何度聞いても気持ちいい。素晴らしい演奏や音色はまるで温泉のようで、心も体もゆるめてあたたかくしてくれる。かなしみや痛みにもスーっとのびてきて、喜びは爆発する。今年の夏は音語りできるかなぁ。
今日の言葉*
“ 楽隊の音は、あんなに楽しそうに、力づよく鳴っている。あれを聞いていると、生きて行きたいと思うわ! まあ、どうだろう! やがて時がたつと、わたしたちも永久にこの世にわかれて、忘れられてしまう。わたしたちの顔も、声も、なんにん姉妹だったかということも、みんな忘れられてしまう。でも、わたしたちの苦しみは、あとに生きる人たちの悦(よろこ)びに変って、幸福と平和が、この地上におとずれるだろう。そして、現在(いま)こうして生きている人たちを、なつかしく思いだして、祝福してくれることだろう。ああ、可愛い妹たち、わたしたちの生活は、まだおしまいじゃないわ。生きて行きましょうよ! 楽隊の音は、あんなに楽しそうに、あんなに嬉(うれ)しそうに鳴っている。あれを聞いていると、もう少ししたら、なんのためにわたしたちが生きているのか、なんのために苦しんでいるのか、わかるような気がするわ。……それがわかったら、それがわかったらね!”
チェーホフ「三人姉妹」(神西清訳)