311

3月11日。

あの日は、演奏会を予定していて、もうそろそろ
家を出ようかというときに、グラリと揺れた。
なかなか揺れがおさまらない。それどころか
ますます強くなる。照明が振り切れそうに、
天井まで横に揺れた。膝が震えた。
一緒にいた家族と震えながら抱き合った。

結局演奏会会場にも行けず、テレビをつけた。
信じられないような光景が広がっていた。

火が出たまま流されていくたくさんの家。
巨大な生き物のようにすべてを飲み込んでいく津波。
テレビのあちらとこちらで深い溝のようなものができ、
ポツンと取り残されているような不思議な感覚に落ちた。

深いかなしみと無力感。

中継の途中、突然雪が舞っていたのをよく覚えている。
うごめく海と、はらはらと美しく舞う雪が、とても不気味だった。

あれから5年。
変わったことも、変わらないこともある。

心のどこかにいつも東北のことがある。
東北に住んでいる人たちのこと。
亡くなったたくさんの方々のこと。
ご遺族のこと。

特に音楽を奏でていると、
その美しさのなかで
祈るような気持ちに
おのずとなる時がある。

愛する人をなくしたかなしみは
決して消えることがないだろう。

どうかいつの日か、かなしみが大きなもので包まれて、
安らぎが訪れますように。

 

 

ご冥福をお祈りいたします。

 

 

 

 

 

シューベルトの弦楽五重奏のAdagio
まるで天国への扉が静かに開くよう。
なんて美しいのだろう。
いつかこれもガット弦で演奏してみたい。
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=p5hPdIhTrd4&w=560&h=315]

全楽章
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=pdHfVxySCTc]

今日の言葉*

「死んだからだをていねいに扱うとき、
わしらの目それぞれが、死んだそいつの目になるんだ」

「見えない世界に、まっすぐ向けられた目だ。
生きたわしらに、その場所はけっして見えねえ。
けど、死んだ目を通して、そいつを感じとることならできる
そこがあると信じられるから、わしら猟師は、
鳥やけものに鉄砲を向けることができるんだろう。」

いしいしんじ「ポーの話」


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